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NPOやソーシャルビジネスの創業・経営・マネジメント

社会イノベーションの拡散に関する事例研究

●要約
これまでの、研究や事例インタビューを通じた成果として、社会起業家の引き起こす社会イノベーション、および、そのスケールアウトに関して、以下の仮説があがっている。
 
1)社会起業研究は、まだ発展途上だが、その定義にもまだ幅がある。その中でも、Dees(2006)の分類による、「ソーシャルエンタープライズ学派」(Social Enterprise School)、「ソーシャルイノベーション学派」(Social Innovation School)のうち、前者は、起業家=事業を立ち上げた人と考え、社会分野の事業を立ち上げた人たち、としている。これも重要なアプローチだが、本研究では、起業家=イノベーションを起こす人とし、社会全体に広がるイノベーションを志す、後者の要素が重要だと定義した。
 
2)Bradach(2003)によれば、スケールアウト(他地域展開)のための、「Theory of Change」(変化の法則)には“重い”ものと、“軽い”ものがあり、製品やサービスの形で複製しやすいものは比較的、他地域展開がしやすい(量的供給が必要なもの)。一方、そうしたサービスを通じて、ある考え方や価値観、ものの見方の変更を迫りたいプログラムは、文化や価値観を伝える必要があり、展開のためのパッケージはやや複雑で、展開にはより丁寧な準備や条件整備が必要となる(質的向上が必要なもの)。
 
3)後者の、「重め」のTheory of Changeをもつプログラムを展開させるには、人間の行動変化をいざなうような、「デザイン」が重要な鍵となる。建築や空間設計、その他のコミュニケーションデザインによって、顧客やスタッフが自ら考え感じながら、価値観を共有していくVehicleとしての“デザイン”や右脳的や要素を取り込むことも重要となってくる。
 
 
他の地域に展開するとなると、ますます問われるのが「プログラムのどの要素が結果を出すために重要」で、「どの要素はそれほど効いていないのか」創業者のこだわりが正しい場合と、そうではない場合がある。他地域に持っていく場合、できるだけシンプルな形に落とす必要がある(注3)。