大学教育とアクセシビリティ―教育環境のユニバーサルデザイン化の取組み (叢書インテグラーレ)
- 作者: 佐野(藤田)眞理子,山本幹雄,吉原正治,広島大学大学院総合科学研究科
- 出版社/メーカー: 丸善
- 発売日: 2009/03
- メディア: 単行本
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アクセシビリティのニュースを追っていると、広島大学のことがときどき耳に入ります。例えば、
このようなニュースを見るたびに、「なんで、広島大学はアクセシビリティに積極的なんやろうか?そういう下地があるのかな?」といった疑問が沸いてきました。この疑問を解決してくれたのが、本書『大学教育とアクセシビリティ』です。
大学におけるアクセシビリティ
大学におけるアクセシビリティという字面だけを見てみると、キャンパス内の段差をなくしたり、点字ブロックを敷き詰めたりといったバリアフリー化が中心なのではないかと思われそうです。もちろん、バリアフリー化は大事なことですが、それだけではありません。
本書が一貫して主張していることは、障害を持つ学生が入学したときに、どのように平等な教育の機会を提供するのか、ということです。
車いすを使う学生が入学すればスロープをつけることも大事かもしれませんが、スロープは聴覚障害を持つ学生に役立つわけではありません。聴覚障害を持つ学生にとっては、授業のノートテイカーを確保することの方が大事だからです。では、聴覚障害を持つ学生が授業に出席するたびに、どうやってノートテイカーをアサインするのか。この点に広島大学のノウハウがあり、本書の中心的なトピックなのです。
ほかの学生にとっても役立つからアクセシビリティ
また、障害を持つ学生によいより教育機会を提供することは、障害を持っていない学生にとってもメリットがあります。
例えば、聴覚障害を持つ学生のために、大学の先生が分かりやすい資料を事前に配布してくれたり、板書をしてくれたりすれば、聴覚障害を持つ学生にとっては有益ですし、一方で授業が理解しにくい学生にとっても役立つことになります。このように、障害を持つ人たちにとってリソースを使いやすくするということが、結果的にほかの人たちにとっても役立つという、アクセシビリティの本来意義を改めて感じました(これはWebアクセシビリティでも同じです)。
社内のアクセシビリティエバンジェリストに読んでほしい!
本書は大学の職員や福祉関係者を主な対象にしていると思います。また、Webアクセシビリティを社内に広げたいと思っている方々にも読んでもらいたいです。
Webアクセシビリティや大学におけるアクセシビリティは担当者が一人でいくら重要性を訴えても社内にはなかなか根付きません。社内のあらゆる人たちがその重要性を理解し、学び続けなけるための仕組みを導入しなければなりません。
その点、本書は、広島大学が障害を持つ学生を初めて受け入れ、アクセシビリティが大事だと気づくも、はじめはてんやわんやしながら、徐々にノウハウを蓄積し、組織に根付かせていくのかというプロセスを知ることができます。
だからこそ、「なかなかうちの営業が分かってくれなくてさ」とか、「デザイナーはアクセシビリティ考えてなくて、かっこよけりゃいいと思ってるんだよね」(今時、こんな人たちがいるかは知りませんが)、とこんな声を聞きつつも、アクセシビリティを社内に根付かせたい方々にとっては役立つ一冊になるのではないでしょうか。
注文と手に入れ方
ただ、本書について1点だけ注文があります。
本書は150ページ前後と非常に短く、サッと読めることがメリットなのです。ただ、これだけのノウハウがあれば、ページ数を倍にしてもよいから、個々の学生のケースや大学内でアクセシビリティが根付いていくプロセスをもっと詳細に記してほしかったなと思いました。
また、本書の入手の仕方ですが、広島大学アクセシビリティセンターのお知らせに、『大学教育とアクセシビリティ:教育環境のユニバーサルデザイン化の取組み』を刊行しました。(PDF) 関係者には寄贈いたします。 とあります。ぼくは1ヶ月前くらいにこれを発見し、アクセシビリティセンターにメールし、本書を郵送してもらいました。
このリンク先はPDFよりもHTMLのほうがいいですよね[余計]。