Trans

NPOやソーシャルビジネスの創業・経営・マネジメント

SROIの導入のポイント(たぶん)

今まで、NPOを量的な観点から評価することは難しいということがありました。アウトプット評価(サービスの利用者は何名)は今までもありましたが、NPOがサービスを提供することで、どういうふうに地域やひとを変えたのか、社会を変えたかは測定できない課題がありました。

ちなみに、評価というのもいろいろな種類があって、大きくは事業評価と組織評価に分かれます。事業評価はさきのアウトプット評価みたいなもので、組織評価はマネジメントがうまく機能しているかなどを評価するものです。

そういう課題がある中で、近年、一部のNPO関係者が注目してるのがSROI(Social Return on Investment、社会的投資収益率)です。NPOが生み出す社会的価値を量的に把握しようという試みです。

「これはすごいことだ!よい取り組みじゃないか」と僕も初めは思ったんですけど、いざきちんと導入しようとする、実はすごくコストがかかります。SROIを主導していると言われているイギリスでも政府は推進したいと思っているようですが(社会的投資を促進したいという意図もあるのでしょう)、現場のNPOにはなかなか浸透しないと聞いたことがあります。

ただ、SROIがやろうとしている、いわゆるアウトカム評価は非常に意義があります。そもそもアウトプット評価では捉えきれないのものが多いということは何となく想像に難くありません。

例えば、女性の起業という講座を実施したとして、100人が受講しました。でも、実際に起業したのは1人だけ。でも、もう一つの講座は10人受講して、5人が起業しました。

アウトプット評価は前者に軍配が上がりますが、アウトカム評価は後者ですよね。これは簡単な事例ですが、アウトカム評価を実際に測定するためには、講座を実施しただけではダメで、そのあとのフォローアップをきちんとやらないと、そもそも成果が上がったのかどうかが分かりません(この例では少なくともその5人が起業したことを見届ける必要があります)。

僕たちが運営する中間支援系のセンターも、三年くらい前からアウトカム評価を導入しようとしていたことがあります(SROIとは言っていませんが)。ただ、センターは委託事業みたいなものなので、どうしても委託元の行政の施策の方向性に大きく影響受け、評価軸をなかなか定められませんでした。

そのへんも踏まえると、SROIには2つのポイントがあると思っています。

  1. 団体のビジョンが決まっていないとダメです。学校のテストではないし、ROIのように分子分母が固定されているわけではありません。なにをもって成果とするのか、その成果はどのような数字で判断するのかによって、分子分母は大きく異なります。そして、そのためには、団体が成果とするべきこと、つまりビジョンが定まっていないと決められないわけです。
  2. 誰に向かって、SROIを見せるのか。イギリスは公共サービスをソーシャルエンタープライズに担わせたいと考えていて、そのやり方が成果を上げているのかどうを判断するために、SROIを使いたいと思っているよう。また、アメリカでSROIが生まれたときは、NGONPOに対する寄付の投資効果を判断するという目的があったみたいです。では、日本はどうするのか。なんのために、誰のためにSROIを使うのか。

というふうに大きく捉えてしまうとSROIは全然進めないので、現実的なところでは、

  1. 複数年の指定管理者制度を担うNPOが、その施設やサービスを自己評価するために、SROIを用いる。
  2. NPOに何らかの業務を発注・委託する企業・行政などが、SROIを実施できる研究機関などに委託し、そのNPOの成果物を客観的に判断する。または、SROIを実施するために必要な経費をあらかじめ上乗せした上で、NPOに発注する。

あたりから進む感じじゃないかと思います。この意味では、NPO法人育て上げネットが日本のSROIの第一号になったのは必然だったのかも。

SROIは、計算式の面倒くささ(というより意味わからん)から個人的にはあまり乗り気じゃないのですが、アウトカム評価自体は今後必須だろうなと思っているので、自分たちとしても何らかのアクションをとる必要を感じています。