WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)2.0がW3Cによって公開されたのが2008年12月、またJIS X8341-3(高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス− 第3部:ウェブコンテンツ)が今年にも改訂される予定です。昨年から今年にかけて、アクセシビリティの分野は大きく動こうとしています。こういった動きとは別に、2008年5月にW3CはWeb Accessibility for Older Users: A Literature Reviewという文書を発表しました。この文書はどのようなことを述べているのかについて見ていきたいと思います。
WAI-AGEとは何か
WAI-AGE Projectのページによると、WAI-AGEとは「Web Accessibility Initiative: Ageing Education and Harmonisation」の略で、Ageingは高齢化、Harmonisationは協調の意味です。今までWAIは障害者のアクセシビリティを主に対象としてきました。しかし、WAI-AGEは、W3CとERCIM(欧州情報処理数学研究コンソーシアム)が2007年からオフィシャルに始めたプロジェクトであり、その名の如く、高齢者のアクセシビリティを扱っています。
WAI-AGEの目的として次の4つがあげられています。
- 高齢者グループのニーズをより理解すること(Webアクセシビリティガイドラインのコンテキストにおいて)
- 高齢者グループと連携すること(生の声を集め、Webアクセシビリティのための解決策や戦略の発展に寄与するため)
- 既存の教材を改定したり、新しい教材を開発したりすること(Webにおける高齢者グループのニーズをより反映させるため)
- 標準の協調性を推進すること(Webアクセシビリティガイドラインに対する適用と履行を進めるために)
では、実際にどのような文書が策定されているのかを見てみます。
WAI-AGEのLiterature Reviewは2008年5月14日に公開されたのが始めてのものとなります。目次を読むと、主に2つのパートが現時点では重要であることが分かります。
- Older adults and age-related functional limitations(高齢者と高齢に関する身体的な制限)
- A Review of the Literature(文献のレビュー)
Older adults and age-related functional limitationsの章では、
- 高齢者の定義
- 高齢者のIT利用の現況
- 高齢に関係する身体的な制限
などが説明されています。例えば、「高齢に関する身体的な制限」では、
- 視力の低下
- 聴力の低下
- 運動能力の衰退
- 認識の影響
について既存の文献を紐解きながら、高齢者とWebアクセシビリティを概観しています。
そして、A Review of the Literatureの章では、既存の文献をレビューしながら、高齢者とWebアクセシビリティについて詳細に述べています。
WAI-AGEから得られる現状の課題
WAI-AGEではWAIのガイドラインと既存の文献を比較して、どのような結論を導いているのでしょうか。
読みやすいフォントの色合いやサイズ、分かりやすいナビゲーションなど一般的なユーザビリティの課題が既存の文献では指摘されており、そのうちのいくつかはWCAGでも明らかにされていることです。
しかし、
- Web業界や高齢者・障害者コミュニティにそのような研究があることが十分に知られていない
- 一方、研究者においてはWAI・WCAG・支援技術のことを十分に知らない
- 文献における技術的な知識の欠如
などの課題が指摘されています。
WAI-AGEの今後
WAI-AGEについてはメーリングリストや議事録を閲覧したり、議論に参加したりもできます。現在はLiterature Reviewから離れ、WAIの各ページのコンテンツの校正作業に入っているようです。
欧米諸国に比べて高齢化が進む日本ではWAI-AGEの取り組みは非常にフィットするのではないかと思っています。当面はこの動きを追っていきたいです。