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NPOやソーシャルビジネスの創業・経営・マネジメント

The Nonprofit Sector

アリゾナ州立大学 Master of Nonprofit Leadership and Managementの基幹授業である「The Nonprofit Sector」を終えたので、どんな書籍や論文を読んだのかを一部だけ紹介しておきます。

アメリカのNPOが関係する法律についての解説書。第1章のみを読んだ。1章は序章的な扱い。

アメリカの法律は、州ごとにかなり異なるので、NPOにもその影響が見られる。だから、501(c)(3)と呼ばれる免税制度を受けているからといって、501(c)(3)だけがNPOというわけではないというのが大事。

アメリカには、日本のような特定非営利活動促進法みたいなものがない。例えば、アリゾナ州の州法で定められたcorporationという法人格を持っている組織が、連邦法で規定される501(c)(3)を適用される、みたいな感じ。この組織はもちろんNPOなわけだが、一方で、501(c)(3)を適用されないけれども、それぞれの州法で規定される法人や任意団体で非営利活動を行うこともできる。この二重構造みたいなものを理解するのにめっちゃ時間がかかった。

26 U.S. Code § 501 - Exemption from tax on corporations, certain trusts, etc.

書籍や論文ではなく、法律の名前。アメリカで免税されているNPOのことを、通称501(c)(3)と呼ぶが、この呼称はこの法律から来ている。

理由は、Code § 501の(c)List of exempt organizationsにある(3)に該当する組織だから。さらに言えば、この法律はほかにもいろんな種類の組織の免税を定めており、(5)は、Labor, agricultural, or horticultural organizations.という組織に免税を与えている。つまり、この組織形態は、501(c)(5)と呼ぶわけね。ただ、これがどういう組織なのかは全然わからん。

National Taxonomy of Exempt Entities (NTEE) Codes

こちらも書籍や論文ではなく、制度の名前。日本の特定非営利活動促進法は、別表にてその活動内容を列挙しているが、アメリカの場合はこのNTEEというものでその活動内容を一覧化している。制度の名称の通り、501(c)(3)などの免税制度と強く関係している。

例えば、AはArts, Culture, and Humanities、BはEducationなどとなっている。さらに、サブセクターに分類されていて、A31はFilm & Videoであったり、P21はAmerican Red Cross。O21がBoys Clubsだけど、O23はBoys & Girls Clubsとか。

免税制度を受けると、自組織もどれかが割り当てられる。ただ、機械的に割り当てられるから、間違ったコードが割り当てられることもたまにあるらしい。

Frumkin, P. (2002). On being nonprofit: A conceptual and policy primer. Harvard University Press.

この授業のテキスト。通読した。マジで必読。以前のFacebookの投稿で触れたので割愛。

Putnam, R. (2001, December 19). The strange disappearance of civic america. The American Prospect.

『孤独なボウリング』で有名なパットナムによる記事。RQは「なぜアメリカの市民社会は弱まってしまったのか?」というもの。データを根拠にいろんな犯人探しをするわけだが、パットナムがたどり着いた結論は「テレビ」ではないか、というもの。

Avner, M. A. (2016). Advocacy, lobbying, and social change. In D. O. Renz & R. D. Herman (Eds.), The Jossey-bass handbook of nonprofit leadership and management (4th ed.) (pp. 396-426). John Wiley & Sons.

アドボカシーとロビイングの違いなどを記した書籍の1章。IRS(上述した501(c)(3)を管轄する内国歳入庁のこと)は、NPOがアドボカシーに使える費用の上限などを定めていたりと「へー」と思える解説も多かった。

GuideStar

アメリカのNPOアカウンタビリティについて議論すると、絶対に出てくるのがGuideStarというWebサイト。アメリカの数多くのNPOの情報がここで一元的に見ることができる。

ログインして、調べたいNPOを検索すると、画像のようなデータをがっつりと入手できる。ASUはGuideStarに教育機関として契約を締結しているようで、僕は登録なし+無料で利用できる。ヤバい(語彙力…)。

Hansmann, H. B. (1980). The role of nonprofit enterprise. The Yale Law Journal, 89(5), 835–901.

政府とNPOの違いについて論じ、「契約の失敗」という理論を提示したことで有名な古典的論文。契約の失敗が何かについては、公益法人協会のWebサイトで中嶋先生が的確な解説をしているので、そちらを読んでみてほしい。

Independent Sector. (2022). Trust in civil society: Understanding the factors driving trust in nonprofits and philanthropy.

Independent Sectorという機関が、政府やNPOがどれだけ信頼されているかについて定期的に調査している。そのアニュアルレポート。日本でよく指摘されるように、アメリカでは連邦政府に対する信頼が低く、NPOに対する信頼がとても高い。

Teasdale, S., Bellazzecca, E., de Bruin, A., & Roy, M. J. (2022). The (R)evolution of the social entrepreneurship concept: A critical historical review. Nonprofit and Voluntary Sector Quarterly, 1(29).

Social Entrepreneurshipの意味がアカデミックの世界でどのように変遷してきたのかをレビューした論文。NPOが市場ベースで自主事業で稼がないといけないというロジックは2000年代に現れたもので、実は、1990年代のSocial Entrepreneurshipは地方政府の政策立案にクリエイティブな方法で影響をもたらす存在として言及されていた。つまり、2000年代から大きく意味が変わるんよね、と指摘する。

ほかにもいろいろあるけど、疲れてきたのでここで終えます。

企業からNPOが寄付をもらう方法

futurelearnにて、The University of KentのHow to Fundraiseというコースを受講しているので、そのメモ書き。

  • Burlingame, D.F. & Young, D.R. (1996) Corporate Philanthropy at the Crossroads. Bloomington, IN: Indiana University Press.は企業がどのようにNPOにアプローチするのかについて4つのモデルを提示した
    • corporate productivity model CSR活動に勤しむことが本業の利益になる
    • ethical or altruistic model 自社があるコミュニティに貢献すること自体に価値がある
    • stakeholder model 従業員や顧客のニーズを満たす(ボランティアの機会を提供するなど)
    • political model 特に大企業において、政府の障害や規制を減じさせる
  • 企業が行う社会貢献の方法
    • direct donations 企業から財団などを通じてNPOを直接支援する
    • Gifts-in-kind 従業員によるボランティア、商品の提供など
    • Employee fundraising 自社の従業員によるファンドレイジングを支援する
    • Sponsorship イベントやニュースレターなど。企業がその顧客に寄付を依頼する場合も含む
    • cause-related marketing 特定の商品が購入されたときに、その一部がNPOに寄付される

パネルディスカッションの司会のコツ

「司会、上手ですね」と言われることが最近増えた。ふむ。僕は、早口、コミュ障気味、頭の回転が早いわけではない、空気を読めないなど、およそ司会に向いていないと思われる条件が揃っている。

しかし、司会をやることは多いのが事実だ。一般的に、社会人生活を送る上で司会を経験するという機会はそれほど多くない。講師業と違ってノウハウが出揃っているわけではない。司会を務め始めたときに「司会 コツ」とググっても、結婚式の司会のコツしか発見できなかった。

司会を務めるときにどんなことに気をつけているのか、何をポイントとしているのかを、パネルディスカッションの司会を想定して、そのノウハウを共有しておきたい。長文である。3,000字以上ある。

事前準備

○この場の目的や落としどころをある程度詰めておく

フォーラムやパネルディスカッションの企画者と、この場の目的や落としどころは事前に詰めておきたい。それによって進行が大きく異なるからだ。ただし、それは「この場を通じて、○○について啓発したい」では、不十分である。「参加者が○○を知ることで、○○という行動をとってほしい」と具体的なアクションを伴うもののほうがよい。

○パネリストの出演メリットを想定しておく

講演業を生業とする講師が出演する講演会とは異なり、パネルディスカッションに出演するパネリストは講演業を生業としていないひとが多い。そのため、出演を快諾した理由は、金銭的な報酬よりも、ほかのメリットを見出したのだと思われる。

そのメリットがなにかを司会は探っておく必要がある。自社商品のPRか、企画者と仲が良くて断れなかったのか、ほかのパネリストと関係性を作りたいのか、たんに面白そうと思ったから、など。そのメリットによって、そのパネリストがパネルディスカッションに望む姿勢を想像できるし、最も話したいテーマやエピソードを推察できる。

○パネリストについて学ぶ

パネリストのブログやソーシャルメディアを読む。本や雑誌を読む。インタビューを読む。企画者がなぜこのパネリストを選んだのかを教えてもらう。過去のフォーラムや講演会を調べる。パネリストに対する情報は多いほうがよい。時間が許す限り、パネリストについて調べておく。

○時間配分、大枠の質問、締めの質問を考えて、共有する

例えば、60分のパネルディスカッションでは、「Aという内容について20分、Bについて10分、Cについて30分」という大枠の時間配分を設定しておいたほうがよい。パネルディスカッションはとにかく構成が変わりやすいが、事前に大枠を設定したほうがタイムマネジメントをしやすくなる。また、その場の目的と関係するように、締めの質問についても考えておこう。そして、それらはパネリストにも事前に共有しておく。

■当日

○パネリストの「雰囲気」を知る

できれば事前準備で行いたいが、パネリストと司会が当日しか会えないことは多い。当日の議論を創造的にするために、パネリスト同士や司会が一切打ち合わせしないという方法もあるそうだが、それはリスクが高い。

司会はパネリストと数分でよいので、1対1で話す機会を作っておく。どんな話し方をするのか(論理的か、感情的か)、何に関心を持っているのか、事前情報と異なる点はないか、などを探っておく。それらはすべて「このひとは、どんな話題なら、適切に、かつ楽しく話してくれるだろうか」という点につながる。

■進行中

○基本的な事実確認から始めて、徐々に抽象化したり、そのひとの考えを聞いたりする

ひとは、自分がよく知らない話題について正解を求められることを好ましく感じない。例えば、初手の質問が「いまの日本経済についてどのような処方箋が必要ですか」はダメである。質問の順番を変えよう。

「コロナ禍において、あなたの団体が普段支援するご家庭には、どんな影響がありましたか」まずは事実確認。「その課題に対して、これまでどんな取り組みをしてきましたか」さらに事実確認。「経済的な問題に対して、企業や行政があなたの団体と一緒に取り組めることは何ですか」ここで意見を聞く。最後に「では、いまの日本経済についてどのような処方箋が必要ですか」この流れなら、これだけ抽象的な質問でも、パネリストが答えることもできるかもしれない。

司会はパネリストの情報を元に、このようなストーリーを作ることが求められる。

○質問→その理由や意図→質問という流れで、パネリストに質問する

パネリストを務めたことがあるひとは一度は経験したことがあるであろう。

「ああ、あのときの発言にこのことを入れ忘れた」「さっきの発言はもう少し整理すればよかった」「あの発言は誤解されたり、間違って解釈されたりするのでは」

パネルディスカッションは、その性質上、パネリストは司会の質問に対して、自分の引き出しから答えを引っ張り出してすぐに答えないといけないため、どうしても、このようなことが起こってしまう。また、事前にすべての質問をリストアップすることも難しい。

そこで、「Aさん、○○について伺いたいんですよ。なぜ、この質問をするのかというと、先ほどAさんが○○とおっしゃっていたので、云々…。そこで、Aさんにとって○○についての評価について教えてください」といった文章構成で司会が質問する。すると、司会が質問の理由や意図を説明している間に、パネリストは発言を検討する時間ができるため、より的確な答えを返しやすくなる。

ただし、その質問に対して普段から熟考している方、超絶頭がよい方は、こういう構成を必要としない。

○司会のノートは次の質問や構成、キーワードをメモする

司会はパネリストの発言内容をメモするべきだ。しかし、それはすべての発言内容ではない。要点でもない。キーワードである。パネリストが発言した大事な点のみをキーワードとしてメモしておくと、あとで引用したり、質問に使えたりする。また、それらのキーワードを拾っていくことで、締めの質問や結論を導くことも可能だ。

さらに、パネリストの回答を聞きながら、次にするべき質問候補(次の質問候補が1つしか思い付かない場合は、議論が十分に展開できていないと判断するべき)や、それらをどんな順番で展開するかをメモしておく。そして、その質問候補や順番は、パネリストの回答によって、どんどん入れ替えたり、追加・削除しないといけない。

○「…はどう思われます?」や「はどうでしょうか?」は極力使わない

司会は上記の質問方法を多用したくなるが、使わないほうがよい。上記の質問のやり方では、質問の解釈に大きな振り幅を生んでしまうため、司会が問いたい意図とズレる可能性が高い。

ちなみに、パネリスト同士が質問し合うコーナーを設けることもあるかもしれないが、個人的には推奨しない。それまでの議論が分断される、内輪話になるなどいくつかリスクがある。パネルディスカッションが終わってからや、控室でやればよい。

○大きめにジェスチャーする

パネリストは自分の発言が参加者に正確に伝わっているかが気になるものだ。しかし、多くの参加者は理解していたとしても理解していなかったとしても、仏頂面で聞いている。

せめて、司会は大きめにジェスチャーして、聞くようにしよう。「俺は、今日はアメリカのドラマの出演者だ」と自分に言い聞かせ、深くうなずき、よく笑い、分かりやすくしかめっ面をしよう。

○パネリストには平等に発言機会を与える

司会は、よい回答をしてくれたり、笑いを取ってくれたりするパネリストに頼りたくなる。困ったときはこのひとに質問しようと思う。それは避けよう。大半の参加者はAさんを見に来ているかもしれないが、Bさんを見に来たひともいるはずだから。

ひとりひとりの発言時間や発言数を完璧にコントロールすることは難しいが、参加者がそれぞれのパネリストの発言を均等に聞いたと思えるように進めよう。ただし、「Cさんはそこまで話せないと思っていたが、めっちゃええこと言うな」と感じたら、多少の傾斜は設けてもよい。司会がそう感じたことは、参加者もそう感じているはずだから。